HubSpot CRM のデータモデルを正しく理解することが、すべての設計の土台になります。コンタクト・会社・取引の関係性・プロパティ設計・ライフサイクルステージの使い方・インポート・重複管理・権限設計まで、CRMを使いこなすための基礎知識を完全解説します。
HubSpot CRM のデータは「オブジェクト」という単位で管理されます。 オブジェクトはデータベースのテーブルに相当し、それぞれが独自のプロパティ(フィールド)と レコード(行)を持ちます。オブジェクト同士は「アソシエーション(関連付け)」 で繋がっています。
▶ CRMデータ設計の要点インフォグラフィック
▶ 第1章 音声教材(NotebookLM)
| オブジェクト | 何を表すか | 代表的なプロパティ | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 👤 コンタクト | 個人(名刺1枚分のデータ) | 氏名・メール・電話・会社名・ライフサイクルステージ | リード管理・メール配信・ナーチャリング |
| 🏢 会社 | 企業・組織 | 会社名・ドメイン・業種・従業員数・売上 | ABM(アカウントベースドマーケティング)・企業分析 |
| 💰 取引 | 商談・案件1件 | 取引名・金額・ステージ・クローズ予定日・担当者 | 営業パイプライン管理・売上予測 |
| 🎫 チケット | サポート問い合わせ1件 | 件名・ステータス・優先度・担当者・解決日 | カスタマーサポート・問い合わせ管理 |
HubSpot CRM では、オブジェクト同士を「アソシエーション」で繋げることができます。 例えば「山田太郎さん(コンタクト)は株式会社ABC(会社)に所属しており、 〇〇システム導入提案(取引)を進めている」という関係性をCRM上で表現できます。
| アソシエーションの例 | 意味 | 実務での使い方 |
|---|---|---|
| コンタクト ↔ 会社 | この人がこの会社に所属している | 名刺交換時・フォーム送信時に自動で会社と紐付け |
| コンタクト ↔ 取引 | この商談の関係者はこの人たち | 1つの商談に複数の担当者・決裁者を紐付け |
| 会社 ↔ 取引 | この会社との商談 | 企業単位のパイプライン管理・売上集計 |
| コンタクト ↔ チケット | この問い合わせはこの人から | 過去の問い合わせ履歴を参照しながらサポート対応 |
HubSpot のデータモデルをリレーショナルDBで例えると:
コンタクト・会社・取引・チケット が各テーブル。
アソシエーション が中間テーブル(多対多の関係)。
プロパティ がカラム。レコード が行です。
ただし HubSpot の場合、スキーマ変更(カスタムプロパティの追加)が
管理画面から簡単にできる「柔軟なNoSQLライクな側面」も持っています。
プロパティとはオブジェクトが持つ「フィールド(属性)」のことです。 HubSpotが最初から用意している「標準プロパティ」と、 自分で作成する「カスタムプロパティ」の2種類があります。
| プロパティ名 | 内部名(API) | 役割・注意点 |
|---|---|---|
| メールアドレス | コンタクトの一意識別子。重複排除に使われる。必須プロパティ。 | |
| 姓 / 名 | lastname / firstname | メールの宛名・パーソナライズに使用。フォームで必ず取得推奨。 |
| 電話番号 | phone | 営業コールに使用。国コード込みで格納される。 |
| 会社名 | company | コンタクトの所属会社名。会社オブジェクトとは別物。 |
| ライフサイクルステージ | lifecyclestage | Lead → MQL → SQL 等の段階。ワークフローの分岐条件に必須。 |
| リードステータス | hs_lead_status | 営業フォローの状況(未対応/コンタクト済み/商談中等)。 |
| オーナー | hubspot_owner_id | 担当営業のアサイン。通知・レポートの担当者分けに使用。 |
| 最終活動日時 | notes_last_activity | 最後にメール/コール等の活動があった日時。自動更新。 |
| フォーム送信回数 | hs_analytics_num_page_views | エンゲージメント指標。スコアリングに活用。 |
contact_source_detail(流入元詳細)HubSpotの標準プロパティは削除できません。 カスタムプロパティも一度作成すると内部名(API名)は変更できません。 ワークフロー・フォーム・APIと連携している場合、内部名を変えると連携が壊れます。 プロパティを作成する際は、内部名を慎重に設計してから作成してください。
ライフサイクルステージとリードステータスは 似ているようで役割が異なります。両方を正しく使い分けることが、 マーケティングと営業の連携を円滑にする鍵です。
「この人がどのステージにいるか」を表す、マーケティング〜営業全体での大きな進捗指標です。 一度上がったステージは原則として自動では下がりません。
ブログ購読・メルマガ登録のみで、まだフォームを送信していない状態。
何らかのフォームを送信し、CRMにコンタクトとして登録された状態。マーケティングの基本対象。
マーケティングが「営業に渡す価値がある」と判断したリード。スコアリング・行動履歴で自動判定するのが理想。
営業担当者が「商談を進める価値がある」と判断したリード。MQLを営業がレビューして手動または自動でセット。
取引オブジェクトが作成され、実際の商談が始まっている状態。
成約済みの顧客。取引ステージが「成約」になると自動で変わる設定が多い。
他社・他者にHubSpotやサービスを紹介してくれる熱狂的な顧客。手動でセットすることが多い。
ライフサイクルステージが「大きなファネルの進捗」なのに対し、 リードステータスは営業担当者が「今どう動いているか」を管理する細かな状態です。 主にSQLやOpportunityステージの中での細かい進捗管理に使います。
| リードステータス | 意味 | 次のアクション |
|---|---|---|
| New(新規) | まだ営業がアクションを起こしていない | 初回コンタクト(電話・メール) |
| Open(対応中) | フォローを開始しているが返答待ち | 追いかけメール・電話 |
| In Progress(進行中) | コンタクトが取れ、商談が進んでいる | 提案書送付・デモ設定 |
| Open Deal(商談あり) | 取引レコードが作成されて商談中 | パイプライン管理に移行 |
| Unqualified(不適格) | ターゲットでないと判断 | クローズ・別ステージへ |
| Attempted to Contact | 連絡を試みたが繋がらない | 別チャネルで再アプローチ |
| Connected(繋がった) | コンタクトが取れた状態 | ヒアリング・ニーズ確認 |
ライフサイクルステージ:マーケ〜営業の全体進捗。レポートやワークフロー条件に使う大きな指標。
リードステータス:営業が今どう動いているかの細かい状態。日々の営業活動で更新する。
よくある間違い:ライフサイクルステージをMQL→SQLと進めずに取引を作ってしまうと、
ファネルレポートの数字が正確に取れなくなります。
ステージの進行ルールを最初に決めてワークフローで自動化するのがベストプラクティスです。
| 作成方法 | 仕組み | 主な用途 |
|---|---|---|
| ① フォーム送信(自動) | HubSpotフォームを送信するとコンタクトが自動作成。メールアドレスで既存コンタクトと照合・マージされる。 | ウェブサイト経由のリード獲得 |
| ② 手動作成 | 管理画面の「コンタクト」→「コンタクトを作成」から手入力。 | 名刺交換後の入力・展示会リストの追加 |
| ③ CSVインポート | スプレッドシートのデータを一括インポート。プロパティとの列マッピングが必要。 | 既存リストの移行・外部DB からの取り込み |
HubSpotはデフォルトでメールアドレスを一意識別子として重複を管理します。 同じメールアドレスのコンタクトは自動的にマージ(統合)されます。 しかし、実際の運用ではメールアドレスが異なる重複コンタクトが発生することがあります。
| 重複の原因 | 対処法 |
|---|---|
| メールアドレス違い(仕事用・個人用) | 手動マージ:コンタクト詳細の「アクション」→「重複を管理」から手動で統合 |
| 旧姓・改名による表記揺れ | 手動マージ + プロパティ更新。マスターにするレコードを選択してマージ。 |
| 大量の重複(インポート時) | Operations Hub の「データ品質自動化」で重複を検出・自動マージ(Professional以上) |
コンタクトのマージは取り消すことができません。 マージすると、2つのコンタクトの活動履歴・プロパティが統合されます。 どちらのデータを優先するか(マスターレコード)を慎重に選択してからマージしてください。 大量マージを行う場合は必ずバックアップ(エクスポート)を先に取ってください。
会社オブジェクトは「企業単位」でデータを管理するためのオブジェクトです。 BtoB ビジネスでは特に重要で、同じ企業の複数担当者を一括で管理したり、 企業単位の売上・商談状況を把握したりするのに使います。
HubSpot はコンタクトのメールアドレスのドメイン部分を見て、 会社オブジェクトと自動で関連付けます。
| 仕組み | 詳細 |
|---|---|
| 自動マッチングの条件 | コンタクトのメールドメイン(@以降)と一致する会社が存在する場合に自動で紐付け。例:yamada@abc-corp.co.jp → abc-corp.co.jp を持つ会社と紐付け。 |
| 無効化できる設定 | 設定 → プロパティ → 会社の自動関連付けをオフにすることも可能。誤マッチングが多い場合はオフを検討。 |
| フリーメール(Gmail等) | gmail.com / yahoo.co.jp 等のフリーメールドメインは自動マッチングの対象外。 |
持ち株会社と子会社、あるいは本社と支社のような階層関係を HubSpot の会社オブジェクトで表現できます。 「親会社」として設定した会社の売上・取引数を子会社も含めてレポートできます。
| プロパティ | 用途 |
|---|---|
| 業種 | 業種別のメール配信・コンテンツパーソナライズ |
| 従業員数 | SMB/エンタープライズのセグメント分け |
| 年間売上 | ターゲット企業のランク付け・優先度設定 |
| ICP(理想的な顧客プロファイル) | ターゲット企業かどうかのカスタムプロパティ(独自設定) |
コンタクト・会社・取引・チケットの4つの標準オブジェクトでは管理しきれない 独自のデータを管理したい場合に使うのが「カスタムオブジェクト」です。 Marketing Hub / Sales Hub / Service Hub Enterprise のいずれかが必要です。
| 業種・用途 | カスタムオブジェクト例 | 何を管理するか |
|---|---|---|
| 不動産 | 物件 | 物件名・所在地・価格・間取り・内見状況等をコンタクト(検討者)と紐付けて管理 |
| 教育・スクール | コース / 受講 | コース名・開講日・定員・受講料をコンタクト(受講者)と紐付けて管理 |
| SaaS | サブスクリプション | プラン名・契約開始日・更新日・MRRをコンタクト・会社と紐付けて管理 |
| 製造業 | 製品 / 設備 | 製品型番・導入日・保守期限・シリアル番号を顧客企業と紐付けて管理 |
以下がすべて当てはまる場合はカスタムオブジェクトを検討します。
① 標準オブジェクト(コンタクト・会社・取引)では表現できないデータがある
② そのデータが複数のコンタクト・会社・取引と関連付く(多対多の関係がある)
③ そのデータをHubSpotのワークフロー・レポートで活用したい
Enterprise でないクライアントには、取引オブジェクトのカスタムプロパティや
HubDB(CMS Hub)で代替できないかを先に検討してください。
HubSpotは複数ユーザーが使うツールです。 「誰が何を見られるか・編集できるか」を正しく設計しないと、 マーケターが営業のCRM設定を誤って変更したり、 機密の取引情報が全員に見えてしまう問題が起きます。
| 権限レベル | できること | 向いているユーザー |
|---|---|---|
| スーパー管理者 | ポータルのすべての設定変更・ユーザー管理・課金情報の閲覧 | プロジェクトの責任者・HubSpot管理担当者(1〜2名に限定推奨) |
| 管理者 | 指定したHubの設定変更・ユーザー権限の付与(スーパー管理者権限を除く) | 各部門のリード(マーケ責任者・営業マネージャー等) |
| 一般ユーザー | 付与された権限の範囲内での閲覧・編集・ワークフロー実行等 | 現場のマーケター・営業担当者・CS担当者 |
「チーム」機能を使うと、ユーザーをグループにまとめてコンタクト・取引・ レポートの閲覧範囲をチーム単位で制限できます。 例えば「東日本営業チーム」は東日本の取引のみ閲覧、 「西日本営業チーム」は西日本の取引のみ閲覧、といった設定が可能です。
□ スーパー管理者は1〜2名に限定しているか
□ 一般ユーザーに不要な設定変更権限を与えていないか
□ 営業担当者が他の担当者の取引を見られないよう「自分の担当のみ」設定をしているか
□ フリーランサー・外部業者には必要最小限の権限のみ付与しているか
□ 退職者のアカウントはすぐに削除(または無効化)する運用ルールがあるか
コンタクト・会社・取引・チケット・カスタムオブジェクトが基本単位。オブジェクト同士はアソシエーションで繋がる。エンジニア目線ではテーブル×中間テーブルの関係。
内部名(API名)は後から変更できない。命名規則を決めてから作成する。標準プロパティを使い切る前にカスタムプロパティを作らない。
ライフサイクルステージ=大きなファネル全体の進捗(マーケ〜営業)。リードステータス=営業が今日どう動いているかの細かい状態。両方を使い分ける。
CSVインポート時は列マッピングを慎重に確認。コンタクトのマージは取り消せないため、バックアップ後に実施。メールアドレスが重複キーになる。
メールドメインで自動マッチング。フリーメールは対象外。親子会社の階層設定はProfessional以上。ABMを進めるなら会社プロパティの設計が重要。
スーパー管理者は1〜2名に限定。チーム機能で閲覧範囲をコントロール。退職者アカウントの即時削除ルールを運用開始時に決めておく。