Google 検索の 60% がゼロクリック化し、AI が答えを返す時代に「ファネル」は機能しなくなった。HubSpot が 2025年に提唱した Loop Marketing の4ステージを理解し、ICP の定義・Marketing Studio でのキャンペーン設計・UTM 管理まで、2026 年型マーケティング戦略の骨格を組み立てる。
「認知 → 興味 → 検討 → 購買」というファネルモデルは、2010年代のインバウンドマーケティングの黄金律だった。SEO でブログ記事を上位表示させ、フォームでリードを獲得し、メールで育成する——このフローが今や崩れつつある。何が起きているのかを数字で見てみよう。
数字が示すのは、サイトに来る人が減る一方で、来た人の質は上がっているという逆説だ。AI 検索ツールが「事前調査」を済ませてから訪問者がやってくるため、コンバージョン率は向上する。しかし絶対数は減るため、「SEO でとにかく流入を増やす」という戦略だけでは限界がある。
HubSpot 自身が 2025年9月の INBOUND カンファレンスで「ファネルは流れていない(The funnel isn't flowing)」と公式に宣言した。インバウンドマーケティングを発明した会社が自ら方向転換したのだから、これはマーケティング業界の構造的転換を意味する。
ループマーケティングが前提とするのは、顧客が自社サイトに来なくても自社ブランドと接触できる状態を作ることだ。ChatGPT に「おすすめのMAツールは?」と聞いたとき HubSpot の名前が上がる、Perplexity が競合比較記事で自社を引用する、LinkedIn のフィードで顧客の同僚が自社コンテンツをシェアする——こういった「サイト外での接触」を意図的に設計することが 2026 年のマーケティングの核心になっている。
Loop Marketing は Express → Tailor → Amplify → Evolve の4ステージが循環するフレームワークだ。一度回り切ったら終わりではなく、Evolve で得た学びが Express に戻り、ループが強化されていく。HubSpot の Marketing Hub は、この4ステージに対応する機能群を持っている。
Express は「何を言うか」の設計だ。多くの企業が Tailor(パーソナライズ)や Amplify(拡散)から始めてしまうが、ブランドの声が定義されていないとコンテンツが散乱する。HubSpot の Brand Identity 機能(マーケティング → コンテンツ → ブランドホーム)を使えば、AI が自社 Web サイトをクロールしてブランドボイス・トーン・メッセージを自動抽出・維持してくれる。
ブランドホームで設定したボイスは、Breeze が生成するすべてのコンテンツ(メール・LP・ブログ・SNS)に自動反映される。最初に Brand Identity を設定することで、AI 生成コンテンツの品質が全体的に底上げされる。新しいクライアントのポータルを立ち上げるときは、Brand Identity の設定を最優先タスクにしよう。
Tailor は「誰に」「何を」届けるかの設計だ。2025年以降、HubSpot のSegments(動的セグメント)が Lists(静的リスト)を置き換える形で主流になっている。Segments は既知コンタクトだけでなく、匿名の Web 訪問者も含めてリアルタイムで更新される「生きたオーディエンス」だ(詳細は4章)。
Amplify は「どこへ届けるか」の設計だ。2026 年時点で最も変化が大きいステージがここだ。SEO(検索エンジン最適化)に加え、GEO(生成型エンジン最適化)——つまり ChatGPT・Perplexity・Google AI Overviews に自社コンテンツが「引用される」状態を作ることが必須になっている(詳細は2章)。
Evolve はただのレポートではない。「学習を前のステージに戻す」インフラだ。どのコンテンツが GEO で引用されているか、どのセグメントのメールが転換につながっているか——これらのインサイトを Express の ICP 定義や Tailor のセグメント条件に反映させてループを強化する。
「ループに切り替える」といっても、既存のリードナーチャリングワークフローや MQL 自動昇格の仕組みを捨てる必要はない。それらは Tailor ステージの一部として統合される。ループは「上位概念の戦略フレーム」であり、既存の HubSpot 施策は引き続き有効だ。
Loop Marketing の Express ステージで最初に着手すべきは、ICP(Ideal Customer Profile:理想顧客プロファイル)とバイヤーペルソナの定義だ。ICP と ペルソナは混同されやすいが、役割が異なる。
ICP は「概念として定義して終わり」ではなく、HubSpot のデータモデルに落とし込むことが重要だ。具体的には会社オブジェクトのプロパティとして設定する。
Breeze Intelligence(Professional 以上)は 2 億件以上の外部データベースから会社の業種・規模・技術スタックを自動エンリッチメントしてくれる。「名刺のみのコンタクト」に対しても、会社情報を自動補完して ICP 判定できるようになるのが大きなメリットだ。設定は「設定 → データ管理 → Breeze Intelligence」から有効化する。
HubSpot にはペルソナを管理する専用プロパティ「hs_persona」が標準で存在する。コンタクトのプロパティとして使われ、ワークフローや Segments の条件として活用できる。
| プロパティ | 用途 | 設定場所 |
|---|---|---|
| hs_persona | ペルソナの分類(例:マーケ担当者・経営者・エンジニア) | 標準プロパティ / フォームで収集 |
| jobtitle | 役職(フォーム・エンリッチメントで取得) | 標準プロパティ |
| カスタム:ペルソナ詳細 | 課題・予算権限・意思決定役割など詳細情報 | カスタムプロパティを作成 |
| lifecycle_stage | リード〜顧客までのステージ管理 | 標準プロパティ / ワークフローで自動更新 |
ペルソナは精緻に作るより「実際に使える数」で設計する方が重要だ。5〜6 個以上のペルソナを作ると、コンテンツ制作・メール設計・ワークフロー条件分岐がすべて複雑になる。まず 2〜3 個のコアペルソナで始め、データが貯まってから細分化するのがベストプラクティスだ。
Marketing Studio は 2025年 INBOUND で正式発表されたキャンペーン設計のハブだ。従来は「メール」「LP」「SNS」「広告」を別々のメニューから管理していたが、Marketing Studio ではループの4ステージを意識した一体的な設計ができる。
| やりたいこと | Breeze へのプロンプト例 | 出力されるもの |
|---|---|---|
| キャンペーンテーマを決めたい | 「製造業向けのMQL獲得キャンペーンのテーマ案を3つ提案して」 | テーマ案・メッセージング・推奨チャネル |
| メール件名のA/Bテスト候補が欲しい | 「SaaS 経営者向けのウェビナー招待メールの件名を5つ」 | 件名バリエーション・推定開封率コメント |
| LP のコピーを書きたい | 「ICP:IT企業マーケ部長、ペイン:ROI 証明が難しい、のLPコピーを」 | ヘッドライン・サブコピー・CTA テキスト案 |
| ワークフローの設計を相談したい | 「資料DLしたリードを7日間でMQLに育成するワークフローを設計して」 | ワークフロー構造案・メール送信タイミング |
それ以前は Marketing Events(セミナー・ウェビナー)は別メニューで作成してからキャンペーンに紐づける必要があったが、2026年2月のアップデートから Marketing Studio 内で直接 Events を作成・管理できるようになった。ウェビナーキャンペーンの設計が大幅にシンプルになっている。
どれだけ優れたキャンペーンを設計しても、命名規則と UTM が崩れていると後のアトリビューション分析が意味をなさない。特に複数担当者・複数チャネルで運用する場合、ルールを最初から統一することが長期的な運用品質に直結する。
HubSpot のキャンペーンオブジェクトは「施策の傘」として機能する。メール・LP・フォーム・SNS投稿・広告など複数のアセットを1つのキャンペーンに紐づけることで、「この施策全体でいくら売上に貢献したか」が1クリックで分かる状態を作れる。
命名規則は一度決めたら変更が難しい。下記のフォーマットを参考に、自社に合わせてアレンジして使おう。
UTM は「どこから来たか」をトラッキングするパラメータだ。HubSpot では utm_source・utm_medium・utm_campaign・utm_content・utm_term の 5 つを管理できる。
| パラメータ | 意味 | 値の例 |
|---|---|---|
| utm_source | 流入元(どのサービスから来たか) | hubspot-email / google-ads / linkedin / newsletter |
| utm_medium | メディア種別(どの手段か) | email / cpc / social / organic |
| utm_campaign | キャンペーン名(上記の命名規則と統一) | 202604_email_nurture_saas-marketer |
| utm_content | クリエイティブ区別(A/Bテスト時に有効) | cta-blue / hero-image-a / ps-link |
| utm_term | 検索キーワード(主に有料検索広告で使用) | hubspot-ma-tool |
2026年2月のアップデートで UTM 管理 UI が刷新された。マーケティング → キャンペーン → UTM Settings から以下の設定ができる。
①大文字と小文字の混在(Email と email が別カウントされる)、②日本語・スペースの使用(URL エンコードされてレポートが崩れる)、③utm_campaign を毎回違う形式で書く(命名規則の不統一)——これら3つを防ぐだけで、アトリビューション分析の精度が劇的に改善する。命名規則のドキュメントをチームで共有・強制する仕組みを作ろう。
| # | 確認項目 | 完了 |
|---|---|---|
| 1 | ICP とターゲットペルソナが定義されている | □ |
| 2 | Loop の4ステージのどこを担うキャンペーンかが明確 | □ |
| 3 | キャンペーンオブジェクトを HubSpot 上で作成した | □ |
| 4 | 命名規則に従ったキャンペーン名が設定されている | □ |
| 5 | UTM Settings でパラメータのルールが設定されている | □ |
| 6 | 全アセット(メール・LP・フォーム等)がキャンペーンに紐づいている | □ |
| 7 | 目標値(リード数・MQL 数・売上)が設定されている | □ |
| 8 | Brand Identity が設定済みで Breeze が正しいトーンで生成できる状態 | □ |
60% ゼロクリック化・ChatGPT の普及・チャネル分散。線形設計では顧客を追えなくなった。
Express(ブランド確立)→ Tailor(個別最適化)→ Amplify(GEO含む拡散)→ Evolve(学習・改善)が循環する。
会社プロパティにカスタムフィールドを追加し、ワークフロー + Breeze Intelligence で自動判定・更新する。
キャンペーン設計のハブ。Breeze でコピー・構成を生成し、全アセットを一元管理する起点。
[年月]_[チャネル]_[施策タイプ]_[ペルソナ]_[テーマ] の形式を最初から統一する。後から変更は困難。
大文字混在・日本語使用・命名規則の不統一。この3つを防ぐだけでアトリビューション精度が大幅向上。