📗 HubSpot Marketing Hub 実践教科書 — 2026年版
Chapter 1

Loop Marketing 設計
ファネルを捨て、ループで考える

Google 検索の 60% がゼロクリック化し、AI が答えを返す時代に「ファネル」は機能しなくなった。HubSpot が 2025年に提唱した Loop Marketing の4ステージを理解し、ICP の定義・Marketing Studio でのキャンペーン設計・UTM 管理まで、2026 年型マーケティング戦略の骨格を組み立てる。

📖 読了目安 35分
🎯 対象:MA 初学者・戦略設計担当者
📅 2026年3月版

📋 この章の内容

  1. 1-1なぜファネルは終わったのか — ゼロクリック時代のマーケティング構造変化
  2. 1-2ループの4ステージ(Express・Tailor・Amplify・Evolve)の概念と実装の考え方
  3. 1-3自社の ICP とバイヤーペルソナを HubSpot 上で定義する
  4. 1-4Marketing Studio の使い方 — キャンペーン設計を AI ワークスペースで行う
  5. 1-5キャンペーンオブジェクトの設計と命名規則・UTM 管理
Section 1-1

なぜファネルは終わったのか — ゼロクリック時代の構造変化

「認知 → 興味 → 検討 → 購買」というファネルモデルは、2010年代のインバウンドマーケティングの黄金律だった。SEO でブログ記事を上位表示させ、フォームでリードを獲得し、メールで育成する——このフローが今や崩れつつある。何が起きているのかを数字で見てみよう。

60%
Google 検索がゼロクリックで終わる
(AI Overviews が直接回答)
800M
ChatGPT の週間アクティブユーザー数
(2025年10月時点 / 前年比2倍)
4.4x
AI 検索経由でサイトに来るユーザーの
コンバージョン率(従来比)

数字が示すのは、サイトに来る人が減る一方で、来た人の質は上がっているという逆説だ。AI 検索ツールが「事前調査」を済ませてから訪問者がやってくるため、コンバージョン率は向上する。しかし絶対数は減るため、「SEO でとにかく流入を増やす」という戦略だけでは限界がある。

ファネルが壊れた3つの構造的理由

❌ ファネル思考の限界

  • 認知 → サイト訪問という前提が崩れた(60%ゼロクリック)
  • 線形の「一方通行」設計。顧客は非線形に動く
  • チャネルが増えすぎてファネルに収まらない(TikTok・Podcast・Reddit 等)
  • 「成約したら終わり」でリピート・紹介が設計に入っていない
  • AI 検索での「引用」という概念が存在しない

✅ ループ思考が解決すること

  • AI に「引用される」コンテンツ設計が Amplify に組み込まれている
  • 循環構造なので成約後の顧客が次の集客リソースになる
  • チャネルを問わない設計(SNS・メール・広告・対話型AIすべて)
  • Evolve ステージでデータを全ステージに戻し継続改善する
  • HubSpot の全機能が4ステージに紐づいて設計されている
💡 「ファネルが死んだ」は誇張ではない

HubSpot 自身が 2025年9月の INBOUND カンファレンスで「ファネルは流れていない(The funnel isn't flowing)」と公式に宣言した。インバウンドマーケティングを発明した会社が自ら方向転換したのだから、これはマーケティング業界の構造的転換を意味する。

「来てもらう」から「どこでも出会う」へ

ループマーケティングが前提とするのは、顧客が自社サイトに来なくても自社ブランドと接触できる状態を作ることだ。ChatGPT に「おすすめのMAツールは?」と聞いたとき HubSpot の名前が上がる、Perplexity が競合比較記事で自社を引用する、LinkedIn のフィードで顧客の同僚が自社コンテンツをシェアする——こういった「サイト外での接触」を意図的に設計することが 2026 年のマーケティングの核心になっている。

Section 1-2

ループの4ステージ — 概念と HubSpot 機能への対応

Loop Marketing は Express → Tailor → Amplify → Evolve の4ステージが循環するフレームワークだ。一度回り切ったら終わりではなく、Evolve で得た学びが Express に戻り、ループが強化されていく。HubSpot の Marketing Hub は、この4ステージに対応する機能群を持っている。

🔄 Loop Marketing — 4ステージ詳細マップ(2026年版)
Stage 1
🎙️
Express
ブランドの「固有の声」を確立し、全チャネルで一貫して表現する。AI が代わりにブランドを語る前に、自分たちで声を定義する。
Marketing Studio Brand Identity Breeze Copilot ICP定義
Stage 2
🎯
Tailor
セグメント × AI でメッセージを個別最適化する。「全員に同じ」を卒業し、業種・役職・ライフサイクルで出し分ける。
Segments Personalization AI-Powered Email スマートCTA
Stage 3
📡
Amplify
SEO・GEO(AI検索最適化)・SNS・広告・メールでリーチを最大化。AI に「引用される」コンテンツ設計が鍵。
SEO / GEO Grader Content Agent SNS管理 広告管理
Stage 4
📊
Evolve
リアルタイム分析・AIインサイトで継続改善。データを前ステージに戻し、ループの精度を上げていく。
キャンペーンレポート アトリビューション Breeze Intelligence ダッシュボード
Express Tailor Amplify Evolve Express へ戻り、ループが強化される

各ステージの「実装上の勘どころ」

Express:ブランドボイスの確立

Express は「何を言うか」の設計だ。多くの企業が Tailor(パーソナライズ)や Amplify(拡散)から始めてしまうが、ブランドの声が定義されていないとコンテンツが散乱する。HubSpot の Brand Identity 機能(マーケティング → コンテンツ → ブランドホーム)を使えば、AI が自社 Web サイトをクロールしてブランドボイス・トーン・メッセージを自動抽出・維持してくれる。

⚡ 実装のコツ:Express の優先順位

ブランドホームで設定したボイスは、Breeze が生成するすべてのコンテンツ(メール・LP・ブログ・SNS)に自動反映される。最初に Brand Identity を設定することで、AI 生成コンテンツの品質が全体的に底上げされる。新しいクライアントのポータルを立ち上げるときは、Brand Identity の設定を最優先タスクにしよう。

Tailor:セグメント × パーソナライズ

Tailor は「誰に」「何を」届けるかの設計だ。2025年以降、HubSpot のSegments(動的セグメント)が Lists(静的リスト)を置き換える形で主流になっている。Segments は既知コンタクトだけでなく、匿名の Web 訪問者も含めてリアルタイムで更新される「生きたオーディエンス」だ(詳細は4章)。

Amplify:GEO を組み込んだ拡散設計

Amplify は「どこへ届けるか」の設計だ。2026 年時点で最も変化が大きいステージがここだ。SEO(検索エンジン最適化)に加え、GEO(生成型エンジン最適化)——つまり ChatGPT・Perplexity・Google AI Overviews に自社コンテンツが「引用される」状態を作ることが必須になっている(詳細は2章)。

Evolve:学習を全ステージに戻す

Evolve はただのレポートではない。「学習を前のステージに戻す」インフラだ。どのコンテンツが GEO で引用されているか、どのセグメントのメールが転換につながっているか——これらのインサイトを Express の ICP 定義や Tailor のセグメント条件に反映させてループを強化する。

✅ ループと従来ワークフローの共存

「ループに切り替える」といっても、既存のリードナーチャリングワークフローや MQL 自動昇格の仕組みを捨てる必要はない。それらは Tailor ステージの一部として統合される。ループは「上位概念の戦略フレーム」であり、既存の HubSpot 施策は引き続き有効だ。

Section 1-3

自社の ICP とバイヤーペルソナを HubSpot 上で定義する

Loop Marketing の Express ステージで最初に着手すべきは、ICP(Ideal Customer Profile:理想顧客プロファイル)とバイヤーペルソナの定義だ。ICP と ペルソナは混同されやすいが、役割が異なる。

🏢 ICP(理想顧客プロファイル)

  • 「どんな会社」が理想顧客かを定義する
  • 業種・従業員数・売上規模・技術スタック・地域
  • 主に B2B のアカウントレベルの概念
  • ABM・Lookalike Lists の基礎データになる
  • 例:IT業・従業員50〜300名・SaaS製品を持つ・東京/大阪

👤 バイヤーペルソナ

  • 「どんな人」が意思決定・影響するかを定義する
  • 役職・職種・課題・情報収集行動・意思決定プロセス
  • コンタクトレベルの概念(ICP企業の中にいる人)
  • メッセージング・コンテンツ設計の基礎になる
  • 例:マーケ部長・40代・ROI重視・LinkedIn で情報収集

HubSpot 上での ICP の実装方法

ICP は「概念として定義して終わり」ではなく、HubSpot のデータモデルに落とし込むことが重要だ。具体的には会社オブジェクトのプロパティとして設定する。

  1. 会社プロパティの設計:設定 → プロパティ → 会社 から「ICP スコア」「理想顧客フラグ(Yes/No)」「ICP セグメント(A/B/C)」などのカスタムプロパティを作成する
  2. ICP 条件をワークフローで自動判定:業種・従業員数・地域・技術スタック(Breeze Intelligence 連携推奨)などの条件を組み合わせ、会社プロパティを自動更新するワークフローを作成する
  3. ICP 企業リストを Segments で管理:「ICP フラグ = Yes」のコンタクトをリアルタイムで抽出する Segment を作成し、キャンペーン・広告・ABM のターゲットとして活用する
  4. Lookalike Lists と組み合わせ(Enterprise):ICP 企業のデータを元に、Breeze Intelligence が類似企業を自動発見する Lookalike Lists を活用する(7章で詳述)
💡 Breeze Intelligence による ICP 強化

Breeze Intelligence(Professional 以上)は 2 億件以上の外部データベースから会社の業種・規模・技術スタックを自動エンリッチメントしてくれる。「名刺のみのコンタクト」に対しても、会社情報を自動補完して ICP 判定できるようになるのが大きなメリットだ。設定は「設定 → データ管理 → Breeze Intelligence」から有効化する。

バイヤーペルソナの HubSpot 設定

HubSpot にはペルソナを管理する専用プロパティ「hs_persona」が標準で存在する。コンタクトのプロパティとして使われ、ワークフローや Segments の条件として活用できる。

プロパティ用途設定場所
hs_persona ペルソナの分類(例:マーケ担当者・経営者・エンジニア) 標準プロパティ / フォームで収集
jobtitle 役職(フォーム・エンリッチメントで取得) 標準プロパティ
カスタム:ペルソナ詳細 課題・予算権限・意思決定役割など詳細情報 カスタムプロパティを作成
lifecycle_stage リード〜顧客までのステージ管理 標準プロパティ / ワークフローで自動更新
⚠️ よくある失敗:ペルソナを多く作りすぎる

ペルソナは精緻に作るより「実際に使える数」で設計する方が重要だ。5〜6 個以上のペルソナを作ると、コンテンツ制作・メール設計・ワークフロー条件分岐がすべて複雑になる。まず 2〜3 個のコアペルソナで始め、データが貯まってから細分化するのがベストプラクティスだ。

Section 1-4

Marketing Studio の使い方 — AI ワークスペースでキャンペーン設計する

Marketing Studio は 2025年 INBOUND で正式発表されたキャンペーン設計のハブだ。従来は「メール」「LP」「SNS」「広告」を別々のメニューから管理していたが、Marketing Studio ではループの4ステージを意識した一体的な設計ができる。

Marketing Studio の画面構成

Marketing Studio — 主要エリアの構成
キャンペーンキャンバス
全アセットを一覧・管理
Breeze Assistant パネル
AI提案・コピー生成
メール
一括配信・A/Bテスト
ランディングページ
LP・フォーム連携
SNS投稿
マルチチャネル予約
広告
Google/Meta連携
Marketing Events
セミナー・ウェビナー(2026年2月〜)
UTM Settings
トラッキング設定
キャンペーンレポート
全アセット横断分析

キャンペーンを新規作成する手順

  1. Marketing Studio を開く:ナビゲーション → マーケティング → Marketing Studio(またはコンテンツ → Marketing Studio)
  2. 「キャンペーンを作成」をクリック:キャンペーン名・目標・期間・担当者・予算を入力する。名前には後述の命名規則を使う
  3. Breeze でキャンペーンブリーフを生成:「このキャンペーンの目標と ICP を教えてください」とプロンプトを入れると、Breeze がキャンペーン概要・推奨チャネル・メッセージ案を提案してくれる
  4. アセットを追加・紐づける:メール・LP・SNS投稿・広告などのアセットをキャンペーンに紐づける。紐づけることで後のアトリビューション分析が正確になる
  5. UTM を設定する:キャンペーン内の UTM Settings からパラメータを設定(次セクションで詳述)
  6. ステータス管理:計画中 → 実行中 → 完了 のステータスでチームの進捗を管理する

Breeze のキャンペーン活用パターン

やりたいことBreeze へのプロンプト例出力されるもの
キャンペーンテーマを決めたい 「製造業向けのMQL獲得キャンペーンのテーマ案を3つ提案して」 テーマ案・メッセージング・推奨チャネル
メール件名のA/Bテスト候補が欲しい 「SaaS 経営者向けのウェビナー招待メールの件名を5つ」 件名バリエーション・推定開封率コメント
LP のコピーを書きたい 「ICP:IT企業マーケ部長、ペイン:ROI 証明が難しい、のLPコピーを」 ヘッドライン・サブコピー・CTA テキスト案
ワークフローの設計を相談したい 「資料DLしたリードを7日間でMQLに育成するワークフローを設計して」 ワークフロー構造案・メール送信タイミング
🆕 2026年2月:Marketing Events が Studio 内で作成可能に

それ以前は Marketing Events(セミナー・ウェビナー)は別メニューで作成してからキャンペーンに紐づける必要があったが、2026年2月のアップデートから Marketing Studio 内で直接 Events を作成・管理できるようになった。ウェビナーキャンペーンの設計が大幅にシンプルになっている。

Section 1-5

キャンペーンオブジェクトの設計と命名規則・UTM 管理

どれだけ優れたキャンペーンを設計しても、命名規則と UTM が崩れていると後のアトリビューション分析が意味をなさない。特に複数担当者・複数チャネルで運用する場合、ルールを最初から統一することが長期的な運用品質に直結する。

キャンペーンオブジェクトの設計原則

HubSpot のキャンペーンオブジェクトは「施策の傘」として機能する。メール・LP・フォーム・SNS投稿・広告など複数のアセットを1つのキャンペーンに紐づけることで、「この施策全体でいくら売上に貢献したか」が1クリックで分かる状態を作れる。

命名規則の設計

命名規則は一度決めたら変更が難しい。下記のフォーマットを参考に、自社に合わせてアレンジして使おう。

// キャンペーン命名規則テンプレート
[年月]_[チャネル]_[施策タイプ]_[対象ペルソナ or 業種]_[テーマ]
202604_email_nurture_saas-marketer_webinar-invite
202605_ads_abm_manufacturing_product-demo
// 全角スペース・日本語は使わない / 小文字英数字とハイフンのみ推奨

UTM パラメータの設計と 2026年版管理方法

UTM は「どこから来たか」をトラッキングするパラメータだ。HubSpot では utm_sourceutm_mediumutm_campaignutm_contentutm_term の 5 つを管理できる。

パラメータ意味値の例
utm_source 流入元(どのサービスから来たか) hubspot-email / google-ads / linkedin / newsletter
utm_medium メディア種別(どの手段か) email / cpc / social / organic
utm_campaign キャンペーン名(上記の命名規則と統一) 202604_email_nurture_saas-marketer
utm_content クリエイティブ区別(A/Bテスト時に有効) cta-blue / hero-image-a / ps-link
utm_term 検索キーワード(主に有料検索広告で使用) hubspot-ma-tool

2026年2月版 UTM Settings の使い方

2026年2月のアップデートで UTM 管理 UI が刷新された。マーケティング → キャンペーン → UTM Settings から以下の設定ができる。

UTM → HubSpot への自動取り込みフロー
訪問者がUTM付きURLをクリック
HubSpotがCookieで
UTMを記録
フォーム送信時に
コンタクトへ自動紐づけ
キャンペーン
レポートに集計
⚡ UTM 運用で最もよくある失敗

大文字と小文字の混在Emailemail が別カウントされる)、②日本語・スペースの使用(URL エンコードされてレポートが崩れる)、③utm_campaign を毎回違う形式で書く(命名規則の不統一)——これら3つを防ぐだけで、アトリビューション分析の精度が劇的に改善する。命名規則のドキュメントをチームで共有・強制する仕組みを作ろう。

キャンペーン設計チェックリスト

#確認項目完了
1ICP とターゲットペルソナが定義されている
2Loop の4ステージのどこを担うキャンペーンかが明確
3キャンペーンオブジェクトを HubSpot 上で作成した
4命名規則に従ったキャンペーン名が設定されている
5UTM Settings でパラメータのルールが設定されている
6全アセット(メール・LP・フォーム等)がキャンペーンに紐づいている
7目標値(リード数・MQL 数・売上)が設定されている
8Brand Identity が設定済みで Breeze が正しいトーンで生成できる状態

📌 第1章 まとめ

ファネルが終わった理由

60% ゼロクリック化・ChatGPT の普及・チャネル分散。線形設計では顧客を追えなくなった。

Loop の4ステージ

Express(ブランド確立)→ Tailor(個別最適化)→ Amplify(GEO含む拡散)→ Evolve(学習・改善)が循環する。

ICP の HubSpot 実装

会社プロパティにカスタムフィールドを追加し、ワークフロー + Breeze Intelligence で自動判定・更新する。

Marketing Studio の役割

キャンペーン設計のハブ。Breeze でコピー・構成を生成し、全アセットを一元管理する起点。

命名規則の重要性

[年月]_[チャネル]_[施策タイプ]_[ペルソナ]_[テーマ] の形式を最初から統一する。後から変更は困難。

UTM の3大NG

大文字混在・日本語使用・命名規則の不統一。この3つを防ぐだけでアトリビューション精度が大幅向上。

次章:第2章 集客設計(Amplify)— SEO・GEO・コンテンツで流入をつくる

Loop の Amplify ステージを詳解。GEO(Generative Engine Optimization)の設計から、トピッククラスター・Content Agent による記事量産・ランディングページ生成まで、2026 年型の集客インフラを構築する。

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