📗 HubSpot Marketing Hub 実践教科書 — 2026年版
Chapter 4

Segments とパーソナライゼーション
「全員に同じ」を卒業する

静的なリストから、匿名訪問者まで含むリアルタイム動的 Segments へ。2026 年の HubSpot では「誰に・何を・いつ」届けるかをデータで自動制御できる。セグメント設計の実装方法から、Web・メール・CTA のパーソナライゼーションまで、オーディエンス設計の全体像を解説する。

📖 読了目安 35分
🎯 対象:MA 設計担当・HubSpot 管理者
📅 2026年3月版

📋 この章の内容

  1. 4-1Lists(静的リスト)から Segments(動的セグメント)への移行 — 何が変わったか
  2. 4-2Segments の構築 — フィルター条件・AND/OR・リアルタイム更新の設計
  3. 4-3匿名訪問者セグメントと既知コンタクトの統合ターゲティング
  4. 4-4Web・メール・CTA のパーソナライゼーション実装
  5. 4-5セグメント活用の実践例 — ナーチャリング・アップセル・再エンゲージメント
Section 4-1

Lists から Segments へ — 何が変わったか

HubSpot を以前から使っているユーザーにとって、最も大きな概念変化のひとつが Lists(リスト)から Segments(セグメント)へのシフトだ。2025〜2026 年にかけて、HubSpot はセグメンテーションの軸足をリストから Segments に移しつつある。両者は似ているようで、設計思想が根本的に異なる。

従来型
📋 Lists(リスト)
  • コンタクトオブジェクト中心の設計。既知コンタクトのみ対象
  • 静的リストは手動追加・管理。動的リストも更新に遅延が生じることがある
  • コンタクト単体を評価する条件が主(プロパティ・アクティビティ)
  • メール配信・ワークフローのトリガーとして主に使用
  • 匿名訪問者はリストに入れられない
  • オブジェクト横断の条件設定がやや複雑
2026年型
🎯 Segments(セグメント)
  • コンタクト・会社・匿名訪問者を横断した統合オーディエンス設計
  • リアルタイム更新。条件を満たした瞬間にセグメントへの追加・除外が発生
  • 行動データ(Web 閲覧・メール反応・広告クリック)を含む多次元条件
  • 広告・メール・Web パーソナライゼーション・ワークフローすべてに対応
  • 匿名訪問者も行動データで暫定セグメント化できる
  • AI によるセグメント提案(Breeze Segments)が利用可能
💡 Lists は廃止されない — 使い分けの原則

2026年3月時点でも Lists は HubSpot に存在し、メール配信・一部のワークフロートリガーでは引き続き使われている。「Segments に全移行する」のではなく、新規の施策設計では Segments を使い、既存の Lists はメンテナンスしながら並走させるのが現実的な移行パスだ。HubSpot 自身も「Segments はリストを置き換えるものではなく、より高度なオーディエンス管理を可能にするレイヤー」と説明している。

Segments が使える機能一覧(2026年版)

機能Segments 対応Lists 対応備考
メール配信 どちらも使用可能
ワークフロートリガー ○(2025年〜) Segments 対応は段階的に拡大中
広告オーディエンス連携 △(一部) Google・Meta 広告への同期は Segments が推奨
匿名訪問者のターゲティング Segments のみ対応
Web パーソナライゼーション Segments のみ対応
Breeze AI による提案 ○(Lookalike 等) Segments のみ対応
Section 4-2

Segments の構築 — フィルター条件・AND/OR・リアルタイム更新の設計

Segments は マーケティング → Segments(または CRM → Segments)から作成できる。条件は AND(すべてを満たす)と OR(いずれかを満たす)を組み合わせてグループ化でき、複雑なオーディエンス定義も直感的に設計できる。

Segment Builder の構成と操作

Segment Builder — 設定画面イメージ
🎯 SaaS_マーケ部長_MQL候補 リアルタイム更新
グループ 1 — すべての条件を満たす(AND)
ライフサイクルステージ 次のいずれかである リード / MQL
AND 役職 次を含む マーケティング / 広報
AND 従業員数 次の範囲にある 50 〜 500
OR
グループ 2 — すべての条件を満たす(AND)
過去30日のメール開封数 次より大きい 3
AND 特定ページ訪問 次を含む URL を訪問した /pricing
247
現在のメンバー数
+18
過去7日の追加
リアルタイム
更新頻度

Segment の条件として使える主なプロパティ

カテゴリ使える条件の例
コンタクト属性 名前・メール・役職・電話番号・言語・ライフサイクルステージ・リードスコア・ペルソナ
会社属性 会社名・業種・従業員数・売上規模・ICP フラグ(カスタム)・所在地
Web 行動 特定ページの訪問・訪問回数・最終訪問日・滞在時間・フォーム送信済みページ
メール行動 特定メールを開封・クリック・未開封・配信停止・直近 N 日間の開封数
広告行動 特定広告をクリック・特定キャンペーンに接触・広告経由でコンバージョン
CRM アクティビティ 商談ステージ・最終接触日・担当営業・製品購入履歴・サポートチケット数
⚡ AND/OR の設計パターン:「広く取る × 絞り込む」の二段構成

複雑なセグメントを設計するとき、OR グループで「対象となりうる広いオーディエンス」を定義し、AND 条件で「本当にターゲットとする行動・属性」に絞り込むという二段構成が分かりやすい。例:「IT 業界 OR 製造業(OR)」かつ「役職が部長以上 AND 過去14日以内にサイト訪問(AND)」のように組む。

Segment 作成のステップ

  1. Segments 画面を開くマーケティング → Segments → 新しいセグメントを作成 をクリック
  2. オーディエンスタイプを選択する:「コンタクト」「会社」「匿名訪問者」から対象を選ぶ(複数オブジェクトの組み合わせも可能)
  3. フィルター条件を追加する:プロパティ・行動・活動から条件を選んで追加。「AND を追加」「OR グループを追加」でロジックを組み立てる
  4. プレビューでメンバー数を確認する:条件追加のたびにリアルタイムでメンバー数が更新される。広すぎる・狭すぎる場合は条件を調整する
  5. セグメントを保存・名前をつける:命名規則(例:[ペルソナ]_[ステージ]_[行動]_[日付])に従って保存する
Section 4-3

匿名訪問者セグメントと既知コンタクトの統合ターゲティング

HubSpot の Segments が Lists と最も異なる点のひとつが、匿名訪問者(まだフォームを送信していない未知の訪問者)を対象に含められることだ。Web サイトへの訪問者の大多数は匿名であり、彼らをターゲティングできるかどうかは集客効率に大きく影響する。

匿名訪問者の識別方法

HubSpot は訪問者が Cookie を受け入れた場合、コンタクトとして登録される前でも以下の情報を記録する。

🌐
閲覧行動
訪問ページ・セッション数・滞在時間・流入元(UTM)・デバイス種別などが Cookie ベースで記録される。
Cookie 依存
🏢
会社の特定(IP 逆引き)
Breeze Intelligence が IP アドレスから会社名・業種・規模を逆引きし、匿名訪問でも「どの会社からのアクセスか」を推定できる。
Breeze Intelligence 必要
🔗
既知コンタクトとの紐づけ
同一ブラウザで後日フォームを送信すると、匿名期間の行動履歴がコンタクトに自動で紐づく。過去の閲覧ページがコンタクトのタイムラインに反映される。
自動マージ

匿名訪問者を含むセグメントの活用例

🏭 特定業界からの匿名訪問者

Breeze Intelligence で「製造業」と特定された匿名訪問者を Segment に入れ、製造業向けの LP や広告リターゲティングの対象にする。フォーム送信前から業界別メッセージを届けられる。

広告リターゲティング / Web パーソナライズ

💰 料金ページを閲覧した匿名訪問者

料金ページを訪問したことがある匿名訪問者を Segment に追加。ポップアップで「料金についてご質問はありますか?」チャットを自動表示、または Google/Meta 広告でのリターゲティングに活用する。

ポップアップ / 広告リターゲティング

🔄 高頻度訪問の匿名ユーザー

過去30日以内に3回以上サイトを訪問した匿名ユーザー。関心度が高いことが推定されるため、コンバージョン専用の LP に誘導するポップアップや Exit Intent を表示する。

Exit Intent ポップアップ / LP リダイレクト

🏷️ 特定キャンペーン経由の未コンバージョン

広告キャンペーン(utm_campaign = 特定値)経由で来訪したが、まだフォームを送信していない訪問者。同じキャンペーンの別クリエイティブで再アプローチ、または有料広告でのリターゲティングに使う。

広告リターゲティング / A/B テスト
⚠️ 匿名訪問者ターゲティングと個人情報保護法

匿名訪問者の行動データは Cookie によって収集されるため、Cookie 同意バナーの適切な設置が前提となる。訪問者が Cookie を拒否した場合、匿名セグメントへの追加は行われない。また、IP 逆引きによる会社特定は「会社レベル」の情報であり個人特定ではないため、個人情報保護法の観点では別途確認が必要だ。自社の法務チームに相談のうえ設計しよう。

Section 4-4

Web・メール・CTA のパーソナライゼーション実装

Segments を定義したら、次はその Segment に応じてコンテンツを「出し分ける」パーソナライゼーションを実装する。HubSpot では Web コンテンツ・メール・CTA の3つのチャネルでパーソナライゼーションが利用できる。

パーソナライゼーションの3チャネル比較

チャネル出し分けできる内容使用機能プラン
Web コンテンツ ヘッドライン・本文・画像・CTA・バナー全体 Personalization(コンテンツ → パーソナライゼーション) Professional〜
メール 件名・本文テキスト・画像・CTA ボタン・差し込み変数 パーソナライゼーショントークン / スマートコンテンツ Starter〜(基本) / Professional〜(スマートコンテンツ)
CTA 表示する CTA 全体(ボタン・画像・テキスト) スマート CTA(3章で解説) Professional〜

Web パーソナライゼーションの設定方法

HubSpot の Personalization 機能(コンテンツ → パーソナライゼーション)を使うと、同一 URL のページでも訪問者のセグメントによって表示内容を切り替えられる。

🎨 パーソナライゼーション デモ — 同一ページ上での出し分けイメージ
製造業の訪問者
SaaS 企業の訪問者
既存顧客
デフォルト(未分類)
製造業の現場課題を、HubSpot が自動化します
部品発注・在庫アラート・顧客フォローアップを、ひとつのプラットフォームで自動管理。製造業向け導入事例を無料でご覧いただけます。
製造業の導入事例を見る →
  1. パーソナライゼーションルールを作成するコンテンツ → パーソナライゼーション → ルールを作成 から対象セグメントと表示コンテンツを設定する
  2. 対象コンテンツタイプを選ぶ:HubSpot CMS のページ・ブログ・LP のいずれかを対象とする(外部 CMS は対応外)
  3. 編集したいモジュールを選択する:ページエディタで出し分けしたいモジュール(テキスト・画像・ボタン等)を選択し、「スマートルールを追加」をクリック
  4. セグメントごとのコンテンツを入力する:対象セグメントのコンテンツ(ヘッドライン・本文・画像・CTA テキスト)を入力する。設定していないセグメントにはデフォルトのコンテンツが表示される
  5. プレビューで確認・公開する:各セグメントでの表示をプレビューで確認し、問題なければ公開する

メールのパーソナライゼーション実装

メールにおけるパーソナライゼーションは大きく2種類ある。①パーソナライゼーショントークン(差し込み変数)と ②スマートコンテンツ(セグメント別コンテンツブロック)だ。

セグメント
件名の出し分け例
本文の出し分け例
CTA の出し分け例
新規リード
(初回コンバージョン)
「まず知っておきたい HubSpot 活用 3 ステップ」導入・入門色を強くする
概要・仕組みの説明「HubSpot で何ができるか」を丁寧に説明。難しい用語を避ける
「入門ガイドを受け取る」
「無料デモを見る」
ナーチャリング中
(複数コンバージョン済み)
「【事例】〇〇社が3ヶ月で商談数を2倍にした方法」成果・ROI に訴求
具体的な活用事例業種・規模が近い顧客の成功例を中心に構成する
「事例集をダウンロード」
「ウェビナーに参加する」
MQL
(高スコア・商談近い)
「【山田様専用】30分のデモでご要件をお聞かせください」一対一感を演出
ソリューション提案色相手の課題に直結する機能・プランを紹介。担当者名を入れる
「デモを予約する(30分)」
「担当者に直接連絡」
既存顧客
(利用中)
「〇〇機能が追加されました — Professional で使える新機能」プロダクトアップデート訴求
活用促進・アップセル現在使っていない機能の紹介、上位プランで解決できる課題提示
「新機能を試す」
「上位プランを見る」
✅ パーソナライゼーショントークンの使い方

件名・本文に {{contact.firstname}}{{contact.company}} を挿入すると、配信時にコンタクトのプロパティ値に自動置換される。件名に名前を入れるだけで開封率が 20〜30% 向上するという調査結果もある。ただし「フォールバック値(未入力時のデフォルト値)」を必ず設定すること——プロパティが空白だと「こんにちは、{{contact.firstname}}様」のようにトークンがそのまま表示されてしまう。

Section 4-5

セグメント活用の実践例 — ナーチャリング・アップセル・再エンゲージメント

Segments の設計がどれだけ丁寧でも、それを実際のマーケティング施策に結びつけなければ意味がない。ここでは3つの代表的なユースケースでセグメントの活用方法を具体的に見ていく。

ユースケース①:リードナーチャリング

「資料DLして以降なにもしていないリード」を段階的に育成し、MQL に引き上げる。

ナーチャリングセグメント設計フロー
資料DL済み
(Segment A)
3日後メール開封
(Segment B に移動)
料金ページ訪問
(Segment C に昇格)
MQL 自動昇格
→ 営業へ通知

各 Segment の条件が満たされた瞬間にコンタクトが次のセグメントに自動移動し、ワークフローがトリガーされるため、担当者が手動でリストを管理する必要がない。コンタクトが行動を取るたびに自動的に「次のステップ」に進む設計だ。

ユースケース②:既存顧客へのアップセル

現在 Starter プランを利用しているが、Professional の機能を必要とするシグナルを示している顧客を特定する。

セグメント名条件アクション
Starter_アップセル候補A 現在 Starter 利用 AND Professional 機能ページを訪問 AND 利用開始から6ヶ月以上 カスタマーサクセス担当に通知 + アップグレード案内メール送信
Starter_アップセル候補B 現在 Starter 利用 AND ウェビナー(上位プラン紹介)に参加済み AND チャットで機能質問あり 30分の個別デモ案内メール + スマート CTA でアップグレードを表示
高エンゲージメント顧客 過去30日のログイン数 ≥ 20 AND サポートチケット数 = 0 AND NPS スコア ≥ 8 紹介プログラム案内 + 事例掲載の打診

ユースケース③:休眠リードの再エンゲージメント

一定期間アクティビティがないコンタクトを「休眠」として特定し、再接触を試みる。

⚡ セグメントの管理コストを下げる命名規則と定期棚卸し

Segments が増えると管理が煩雑になる。命名規則:[対象]_[ステージ]_[行動条件]_[作成月](例:SaaS_MQL候補_料金ページ訪問_202604)を設定し、四半期ごとに「使われていないセグメント」を棚卸しして削除・統合する習慣をつけよう。HubSpot の Segments 管理画面では最終使用日が確認できる。

📌 第4章 まとめ

Lists から Segments へのシフト

Segments は匿名訪問者・リアルタイム更新・AI 提案・広告連携に対応。Lists は廃止されず、新規設計は Segments を使う。

AND/OR の二段構成

OR グループで広くオーディエンスを定義し、AND 条件で絞り込む。Segment Builder のリアルタイムプレビューで規模感を確認しながら設計する。

匿名訪問者の活用

Breeze Intelligence の IP 逆引きで会社を特定、閲覧行動で興味を推定する。フォーム送信後に行動履歴が自動マージされる。

Web・メール・CTA の出し分け

同一ページで最大4〜5種類のコンテンツを Segment 別に設定できる。パーソナライゼーショントークンで件名・本文を個別最適化する。

ナーチャリングの自動化

行動トリガーでセグメント間を自動移動させることで、担当者が手動管理しなくてもリードが次のステップに進む仕組みを作る。

休眠リードは定期的にクリーンアップ

90日以上無反応のリードへの再エンゲージメントを試み、それでも反応がなければ配信停止。リストのクリーンさが全体の配信品質を保つ。

次章:第5章 Eメールマーケティング — 開封・クリック・転換を最大化する設計

マーケティングの中核チャネルであるメール配信を徹底解説。一括配信・自動配信・A/B テスト・AI 最適化(AI-Powered Email)の使い分けから、配信品質(到達率・スパム回避)の管理、スマートコンテンツによる個別最適化まで、メール設計の全技術を網羅する。

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