「業種フィールドが空欄のコンタクトが3万件ある」「LinkedIn の URL から会社規模を調べてプロパティに入れたい」「ICP スコアを毎週自動計算して担当者に通知したい」——これらをすべて手作業やエンジニアへの依頼なしに実現するのが Data Agent と Smart Properties だ。AI が Web 調査・CRM 情報の推論・プロパティの自動補完をワークフローの中で行う、Data Hub の最新 AI 機能の全貌を解説する。
Data Agent(データエージェント)は HubSpot が2025年 INBOUND で発表した AI エージェント機能だ。「このコンタクトの業種を調べてプロパティに入れておいて」という指示に対し、AI が Web 上の公開情報・HubSpot 内の既存データ・関連レコードを自律的に調査し、最適な値を推論してプロパティに書き込む。
従来の「プロパティを埋める」方法は3種類あった——①ユーザーが手動入力する・②フォームで収集する・③Clearbit 等の外部エンリッチメントサービスを API 経由で呼ぶ。Data Agent はこれらとは異なる第4の方法:AI が推論して自動入力するだ。
| 問題 | 従来の対処 | Data Agent の解決策 |
|---|---|---|
| 重要フィールドの大量空欄 | インターン・SDR が手作業で調査・入力。1件3〜5分、1,000件で50〜80時間 | ワークフロー1本で数千件を自動調査・補完。人的コストをゼロに |
| 外部エンリッチメントのコスト | Clearbit/ZoomInfo は $5,000〜/年。データが古くなっても更新頻度は限られる | HubSpot クレジットで実行。必要なフィールドを必要なタイミングでピンポイント補完 |
| 標準化されていないデータ入力 | 「IT」「情報技術」「テクノロジー」が混在する業種フィールド | HubSpot の標準選択肢から最適な値を AI が選んで入力するため表記揺れが発生しない |
Clearbit・ZoomInfo は膨大なデータベースから即座に取得するため速度・網羅性が強み。Data Agent は Web 上の最新情報を AI がリアルタイム調査するためデータベースにない情報・最新の変化への追随が強み。「大企業の基本情報は Clearbit、中小・スタートアップや細かい情報は Data Agent」という組み合わせが多くの RevOps チームの選択だ。
Smart Properties(スマートプロパティ)は「Data Agent が値を書き込む専用プロパティ」だ。通常のプロパティと異なり、AI が書き込んだ値・信頼度スコア・調査日時・調査根拠(ソース)の4点セットが記録される。HubSpot のプロパティ設定画面で「Smart Property」タイプを選択して作成する。
Smart Property ごとに「何点以上の信頼度のときだけ書き込むか」という閾値(Confidence Threshold)を設定できる。これによって「確実な情報だけを CRM に入れる・不確かな情報はスキップして空欄のまま置く」という品質コントロールができる。
| 閾値設定 | 動作 | 推奨するフィールド |
|---|---|---|
| 高閾値(80〜90以上) | 確実性が高い情報のみ書き込み。スキップ率は高くなるが、書き込まれた値の精度が高い | ワークフローのトリガー条件に使うフィールド・セグメント条件に使うフィールド(業種・会社規模) |
| 中閾値(60〜79) | ある程度の確実性で書き込み。担当者が後で確認することを前提に利用 | 参考情報として表示するフィールド・AI の提案を人間が確認して修正するフィールド |
| 低閾値(60未満) | 積極的に書き込み。精度より網羅率を優先 | 基本的に非推奨。誤ったデータで自動化が誤作動するリスクがある |
Data Agent を実際に動かすのはワークフローの「Fill Smart Property(スマートプロパティを補完)」アクションだ。このアクションをワークフローに追加するだけで、トリガー条件を満たしたレコードに対して Data Agent が自動で調査・補完を実行する。
上記のワークフローは「新規作成時」のトリガーなので、すでに存在する数千件の空欄レコードには適用されない。既存レコードを一括補完するには2つの方法がある。
方法①:ワークフローの「過去のレコードに適用」——ワークフロー設定の「既存のコンタクトを登録」から、対象となる過去レコード(例:「業種が空欄かつ BtoB メール」)を条件指定して一括登録する。実行前にクレジット消費量を試算すること(1件あたり1〜3クレジット)。
方法②:Command Center の「欠損データ」タブから一括補完——第2章で紹介した Data Quality Command Center の「欠損データ」タブに「Data Agent で補完」ボタンが表示される場合がある。対象プロパティと件数を確認してから実行する。
1万件のコンタクトに3つの Smart Property を補完すると、最大3万クレジットを消費する可能性がある。Professional プランの月次上限(5,000クレジット)を大幅に超える。まず100件でテスト実行 → 精度・クレジット消費量を確認 → 段階的に拡大するのが安全な進め方だ。
Data Agent の実行は HubSpot の「AI クレジット」を消費する従量課金型だ。クレジットは Smart Properties の補完だけでなく、AI アシスタントや将来の AI 機能とも共有されるため、適切な管理が必要だ。
Data Agent の精度はフィールドの性質によって大きく異なる。「精度が高い=そのまま使える」「精度が低い=参考程度」という理解で設計することが重要だ。
① 「AI が書いた」ことを必ず記録する——Smart Property には自動的に「AI 入力フラグ」が立つが、通常プロパティにカスタムコードで書き込んだ場合はフラグが立たない。AI 生成データと人間が入力したデータを明確に区別できる設計にする。
② 高精度フィールドのみワークフローの分岐条件に使う——精度 80% 以上のフィールドは自動化の条件として使って問題ない。精度 70% 以下のフィールドは「担当者への参考情報表示」にとどめ、自動トリガー条件には使わない。
③ 定期的な精度監査を行う——月に1回、「Data Agent が入力した業種が実際と合っているか」を100件サンプリングして確認する。精度が下がっていたら閾値の調整・補完対象フィールドの見直しを行う。
① まず業種(Industry)と本社所在地(Country)の2フィールドだけを対象にした小さなパイロットを100件で実施する / ② 精度・クレジット消費量・業務への影響を2週間観察する / ③ 問題なければ対象フィールドを追加・件数を拡大する / ④ 月次の精度監査とクレジット消費レポートをケイデンスに組み込む——この4ステップで安全に本番導入できる。
手動入力・フォーム収集・外部エンリッチメント API に続く「AI による自律的な Web 調査・推論・自動入力」が新たな方法として加わった。Clearbit 等はデータベース型で速い、Data Agent は Web リアルタイム調査型で最新情報に強い。両者を組み合わせて使うのが現実解。
通常プロパティとの最大の違いは信頼度スコアと調査根拠が一緒に保存されること。閾値設定(80以上のみ書き込む等)で品質をコントロールできる。ワークフローの自動化条件に使うフィールドは閾値を高く、参考情報用は低くという使い分けが基本。
業種・会社規模・所在地・技術スタック・資金調達ステージは AI に向いている。メールアドレス・電話番号・財務数値・契約情報は絶対に AI に任せない。「誤った値が自動化に使われたとき何が起きるか」を考えて判断する。個人情報は GDPR・個人情報保護法のリスクも考慮する。
Professional プランの月5,000クレジットは、1万件に3プロパティ補完すると一瞬で超える。必ず100件のパイロットでクレジット単価を確認し、月間消費量を試算してから本番適用する。追加クレジットは購入できるが、予算超過に注意。