マーケティングが育てたリードが「MQL → 営業引き渡し」された後、どのように商談を管理し成約につなげるか。取引オブジェクトの設計・パイプラインのステージ設計・活動ログ・複数パイプラインの使い分け・ワークフローとの連携まで、エンジニア・PMが知っておくべき営業プロセスの全体像を解説します。
パイプラインとは、商談が「初回接触」から「成約(または失注)」まで どのステージにあるかを可視化する仕組みです。 営業全員の案件状況が一目でわかるカンバンボードのようなものです。 適切に設計されたパイプラインは「どの案件がどこで止まっているか」「今月の売上予測はいくらか」 をリアルタイムで把握できます。
| 原則 | 詳細 | NG例 |
|---|---|---|
| ① ステージ数は5〜7個が最適 | 多すぎると営業が更新をサボる。少なすぎると状況が掴めない。5〜7ステージが運用しやすい最適値。 | 10ステージ以上のパイプライン → 更新が面倒で放置される |
| ② 各ステージに「完了の定義」を設ける | 「このステージに進む条件は何か」を明確に定義する。曖昧だと担当者ごとに判断がズレる。 | 「なんとなく商談中」「提案した気がする」で進める |
| ③ 確度(成約確率)を設定する | 各ステージに成約確率(%)を設定することで、売上予測が自動計算される。 | 全ステージ確度50%で設定 → 予測に意味がなくなる |
| ④ 失注理由を必須プロパティにする | 「Closed Lost」に移動する際、失注理由(価格/競合/時期/ニーズなし等)を必須入力にする。この情報が将来の改善施策に直結する。 | 失注理由を記録せずにCloseだけする → 傾向分析ができない |
取引オブジェクトは「1件の商談・案件」を表すオブジェクトです。 コンタクト・会社とアソシエーションで紐付けて管理します。 取引の標準プロパティを正しく使いこなすことが、正確な売上予測の土台になります。
| プロパティ名 | 内部名 | 役割・設計のポイント |
|---|---|---|
| 取引名 | dealname | 「会社名 + 案件内容」の命名規則を統一する。例:「株式会社ABC_CRM導入」。検索しやすい命名が重要。 |
| 金額 | amount | 受注見込み金額(税抜き推奨)。売上予測・KPIレポートの基礎データ。ステージ進行時に必須入力にするのがベストプラクティス。 |
| クローズ予定日 | closedate | 商談のクローズ予定日。毎月の売上予測に使われるため、現実的な日程を入力する。古い日付のまま放置しない。 |
| パイプライン | pipeline | どのパイプラインに属するか。複数パイプラインがある場合は作成時に選択する。 |
| 取引ステージ | dealstage | 現在のステージ。変更するたびに日時が自動記録され、各ステージの滞在期間が計測できる。 |
| 失注理由 | closed_lost_reason | Closed Lostにした理由。ドロップダウンで選択肢を統一する。「競合他社」「価格」「時期」「ニーズなし」等。 |
| 取引ソース | hs_analytics_source | どのチャネルから来た商談か。マーケティングROIの計測に必須。 |
HubSpotはパイプライン内の取引金額と確度を掛け合わせて 「重み付き売上予測」を自動計算します。
見積もり提出ステージ(確度75%)の取引:¥1,000,000
→ 重み付き売上予測 = ¥1,000,000 × 75% = ¥750,000
パイプライン内のすべての取引の重み付き金額を合計したものが
「今月の売上予測」としてダッシュボードに表示されます。
この数字の精度を上げるためには、金額とクローズ予定日を正確に更新し続ける営業習慣が不可欠です。
ビジネスの成長とともに、「新規顧客獲得」と「既存顧客のアップセル」では 商談プロセスがまったく異なることに気づきます。 HubSpot Professional 以上では複数のパイプラインを作成でき、 それぞれ異なるステージ構成・確度・必須プロパティを設定できます。
| 分けるべきケース | 分けない方がいいケース |
|---|---|
| 商談のプロセス・ステップが根本的に違う(新規 vs 更新等) | ほぼ同じプロセスで、区別するメリットが薄い |
| KPIや目標が別々に管理されている(新規MRR vs 更新ARR等) | 営業チームが少人数で全員同じプロセスを使う |
| 担当チーム・担当者が異なる(新規営業チーム vs CSチーム等) | パイプラインを増やすと管理が煩雑になる段階 |
クライアントへのHubSpot導入初期はパイプラインは1つから始めることを強く推奨します。 複数パイプラインは「運用が定着してから」追加するのがベストプラクティスです。 最初から複数設定すると、データが分散して全体像が見えにくくなり、 営業担当者が「どちらのパイプラインに入れるか」迷う原因になります。
HubSpot CRMの強みのひとつが、営業担当者のすべての活動(コール・メール・会議・メモ) がコンタクト・取引に自動的に紐付いて記録されることです。 「あの人と最後にいつ話したか」「どんな内容の商談だったか」が 担当者が変わっても即座に確認できます。
担当:田中太郎 / 自動記録
参加者:山田様(ABC社)、田中(弊社)/ 次回:見積もり提示の日程を設定
件名:本日のデモのフォローアップ資料です / 開封:あり
課題:現行ツールでのデータ管理の煩雑さ。意思決定者は山田部長と鈴木社長の2名。
現在Salesforceとも比較検討中とのこと。価格面での優位性・導入スピードが決め手になりそう。
ライフサイクルステージを「SQL」に更新。担当者:田中太郎にアサイン。
| 活動種別 | 記録方法 | 自動記録の可否 |
|---|---|---|
| 📧 メール | Gmail / Outlook と HubSpot の連携で、送受信メールが自動でCRMに記録される | ✅ 自動(連携設定後) |
| 📞 コール | HubSpotの通話機能を使って電話をかけると自動記録。外部で電話した場合は手動で通話ログを追加。 | ✅ HubSpot通話ツール使用時 |
| 📅 会議・ミーティング | HubSpotミーティングツール(予約ページ)経由での会議は自動記録。手動でも追加可能。 | ✅ ミーティングツール使用時 |
| 📝 メモ・ノート | コンタクト・取引詳細画面から手動で追加。商談メモ・競合情報・特記事項に使用。 | ❌ 手動のみ |
| ✅ タスク | 手動作成またはワークフローから自動生成。期限・担当者・優先度を設定できる。 | ✅ ワークフロー経由で自動生成可 |
HubSpotには取引に紐付けた見積もり作成・電子署名・オンライン決済の機能があります。 これを使うと、HubSpotだけで「提案→見積もり→署名→支払い」の全プロセスを完結できます。
取引レコードから見積書を作成。商品・サービスのカタログから選択して自動計算。PDFダウンロード・共有URLで送付。
見積書・契約書に電子署名機能を追加。署名完了が取引ステージの進行トリガーにできる。
Stripe連携でクレジットカード・口座振替での決済をHubSpot内で受付可能。決済完了で取引が自動成約。
製品・サービスの単価・税率・請求周期(月次/年次)を登録。見積もり作成時に選択するだけで金額が自動計算。
月額・年額課金のサブスクリプションを管理。更新日・MRR・ARRをHubSpot内で追跡できる。
MRR・ARR・チャーン率・新規/更新/アップセルの内訳レポートが自動生成される。
| 機能 | Starter | Professional | Enterprise |
|---|---|---|---|
| 見積もり作成 | ✅ | ✅ | ✅ |
| 電子署名 | ❌ | ✅ | ✅ |
| オンライン決済(Payments) | ✅(別途Stripe契約) | ✅ | ✅ |
| 商品カタログ | ✅ | ✅ | ✅ |
| サブスクリプション管理 | ❌ | ✅ | ✅ |
| 収益レポート(MRR/ARR) | ❌ | ✅ | ✅ |
従来:Excel で見積書作成 → PDF出力 → メール送付 → 手動でCRMを更新
HubSpot Commerce Hub:取引から直接見積書作成 → URLで共有 → 署名・決済まで完結 → 成約でCRMが自動更新
営業担当者の見積書作成にかかる時間を大幅に削減でき、
見積書のステータス(送付済み/開封済み/署名済み)がリアルタイムで追跡できます。
クライアントへのHubSpot提案時に「営業工数の削減」として訴求できる機能です。
第3章でコンタクトベースのワークフローを学びましたが、 取引ベースのワークフローを使うと営業プロセスそのものを自動化できます。 「ステージが変わったら何かが自動で起きる」仕組みを作ることで、 営業担当者の手間を大幅に削減し、抜け漏れを防ぎます。
トリガー:取引レコードが新規作成された / 条件:担当者が未設定
ラウンドロビンで営業チームに均等割り当て
「初回ヒアリングの日程調整」タスクを担当者に作成・期限:3営業日
「新規取引が作成されました」メール通知
関連コンタクトを「Opportunity」ステージに更新
トリガー:取引ステージが「Closed Won」に変更された
契約お礼と今後の流れのご案内(マーケメール)
関連コンタクトを自動更新
「オンボーディング開始」チケットを担当CSに割り当て
#sales チャンネルに「🎉 ○○社と成約!¥○○万円」を自動投稿
トリガー:取引の「ステージ更新日」から21日以上経過した / 条件:Closed ステージではない
「21日間ステージが動いていない取引があります」
30日以上滞留したらマネージャーにも通知
【ワークフロー名】成約後オンボーディング自動化
種別:取引ベースのワークフロー
トリガー:
└─ 取引ステージ = "closedwon"(Closed Won)に変更された
アクション①(即時):
└─ 関連コンタクトのライフサイクルステージを "customer" に更新
アクション②(即時):
└─ マーケティングメール送信:「ご契約ありがとうございます(ウェルカムメール)」
※ 関連コンタクト全員に送信
アクション③(即時):
└─ Slack通知(#salesチャンネル)
メッセージ:「🎉 {{ deal.dealname }} が成約しました!
担当:{{ deal.hubspot_owner_firstname }}
金額:{{ deal.amount }}円」
アクション④(即時):
└─ チケットを作成(Service Hub)
タイトル:「{{ deal.dealname }} オンボーディング開始」
担当者:CSチームのオーナー(ラウンドロビン)
期限:取引成約日から5営業日後
遅延:7日後
アクション⑤(7日後):
└─ 担当CSにタスク作成
「オンボーディング完了の確認・顧客満足度ヒアリング」
期限:実行から3日後
□ 取引作成時に担当者が自動アサインされるワークフローがあるか
□ 成約時にコンタクトのライフサイクルが自動で「Customer」になるか
□ 成約後のオンボーディング・ウェルカムメールが自動送信されるか
□ 長期滞留取引(20日以上動いていない)への警告アラートがあるか
□ 失注時に失注理由の入力が必須になっているか(ステージの必須プロパティ設定)
□ 失注後の再アプローチワークフローが設計されているか(第3章パターン③参照)
多すぎると更新が放置され、少なすぎると状況が見えない。各ステージに「このステージに進む条件」を明確に定義し、確度(%)を設定することで売上予測が機能する。
金額・クローズ予定日・担当者の3つが正確に入力されていないと売上予測が機能しない。特にクローズ予定日の「古い日付放置」は全体の予測を歪める。定期的な棚卸しが重要。
新規/更新/パートナー等でプロセスが異なる場合は複数パイプラインが有効。ただし導入初期は1パイプラインから始めて、運用が定着したタイミングで分割する。
コール・メール・会議・メモの記録がコンタクト・取引に紐付くことで、担当者交代時でも商談経緯が一目瞭然。「次のアクション(タスク)を常に取引に残す」習慣が成約率を上げる。
見積もり作成・電子署名・オンライン決済をHubSpot内で完結できる。見積書の開封状況がリアルタイムで追跡でき、署名完了が取引ステージの自動進行トリガーになる。
取引作成時の自動アサイン・成約時のウェルカムメール・長期滞留アラートの3つのワークフローを設計するだけで、営業プロセスの品質が大幅に向上する。